雪下ろし等における事故防止対策について
令和2年3月
雪下ろし等における事故防止策の徹底・強化方策を検討するため、人身雪害リスクの試算とともに、雪下ろし等における事故防止対策について、「ヒト」「モノ」「制度」の視点(注)から調査しました。ヒアリング調査結果や市町村・道府県における取組内容を踏まえ、ここに紹介します。
注:「ヒト」「モノ」「制度」の3ステップを想定した安全対策の周知普及方策のうち、「ヒト」「モノ」に対するアプローチについては、『北海道における除雪事故の現状と防⽌対策の展望(北海道における克雪に関する意⾒交換会資料)』(2019年6月、堤拓哉(北海道⽴総合研究機構 北⽅建築総合研究所))を参考としています。
1.人身雪害リスクの試算
屋根の雪下ろし時の事故防止対策の周知普及を図っていく上で、その前段として、データで除雪作業中の人身雪害リスクの大きさについて、基礎資料として示すことを狙いとして、人身雪害リスクの試算を行いました。
既往研究として、「県別・市町村別の人身雪害リスクの比較」(著者:上村靖司氏、高田和輝氏、関健太氏,自然科学J.JSNDS 34-3 213-223,2015)があり、これを参考に調査をすすめました。使用したデータは以下のとおりです。
<雪害データ>
・2012~2017年度 6冬期
・消防庁提供データ(死亡事故のみ)と市町村を対象とした雪害ヒアリング調査(死亡・重傷)
※2012~2014年度は軽傷データを把握していない。データを統一するため死亡・重傷データで整理
・除雪作業中の事故(屋根転落、はしご転落、除雪機、水路等転落、発症、転倒、雪崩、落雪、建物倒壊、雪倒壊、その他)
<労働災害データ>
・労働災害死亡者数、労働災害死傷者数(2011~2017年 労働災害発生状況 厚生労働省)
・年間総労働時間(2017年 独立行政法人労働政策研究・研修機構)
・就業者数(2017年 労働力調査 総務省統計局)
<人口データ>
・2017年 国勢調査 総務省統計局
調査結果① 人身雪害リスクと労働災害リスクとの比較
図表 1 道府県の人身雪害リスクと労働災害リスクの比較(2012~2017年度)
調査結果② 労働時間当たりの人身雪害リスクと労働災害リスクの比較
図表2 道府県のFAFR(108労働時間当たりの死者数)の比較(2012~2017年度 6冬期)
図表3 労働災害(2017年)死者数
2.事故防止対策 ~「ヒト」「モノ」「制度」の視点から~
■「ヒト」の視点から
令和元年度冬期に開催された除雪作業に関する安全対策講習会の参加者を中心に、屋根の雪下ろし等除雪作業中の事故防止対策の実施状況等に関するヒアリング調査を実施しました。
<調査方法>
表 市町村別の対象者数
【安全対策を実施するようになった理由は?】
安全対策を実施するようになった理由は、「転落に伴う死亡事故が発生しているから」(53.3%)が最も多く、2番目に「安全対策講習会への参加、専門家からのアドバイス」(46.7%)が多く、「ヒヤリ・ハットの経験があるから」(43.3%)も多くなっています。
図 安全対策を実施するようになった理由
(N=30)
【安全対策を実施するメリットは?】
【参考:安全対策講習会に参加してみて】
参加者の多くは、安全対策講習会の受講を通じて、命綱の装着も含めた安全対策の実施意向が高まっており、事故防止対策の普及に向けては、高齢者等に直接アプローチする安全対策講習会の開催が有効であることも確認できました。
一方、「アンカー設置に関する助成」や「安全帯のレンタル」が必要との意見も一定程度あり、そうしたハード面での支援も必要であることがわかりました。
図 講習会受講前後の比較(N=55)
図 安全対策の普及に向けて必要な対策(N=70)
■「モノ」の視点から
平成30年度冬期に行われた除雪作業中の事故防止に向けた市町村・道府県による取組内容は下表の通りです。
■「制度」の視点から
多雪区域においては、屋根雪下ろしを行う前提で、建築基準法において積雪荷重の算出の基準となる垂直積雪量を1mに減ずること(注)が認められています。そのため、1m以上の屋根への積雪があった場合は、屋根雪下ろしをしなければならない規定がある一方で、屋根雪下ろしに対する安全対策の規定はほとんどありません。例外的に、新潟県の屋根雪対策条例においては、転落事故防止のための器具の使用と安全対策の実施を努力義務としています。
新潟県のように条例によって屋根雪下ろしを行う住民に対する規定を設けることで、一層の安全対策の普及が見込まれます。また、同様に屋根雪下ろしを行う必要のある新築住宅について、アンカー設置を条例に規定することで、アンカーの普及にも効果があるものと考えられます。
注:垂直積雪量は特定行政庁が定め、市町村によって異なる。